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2025.10.29

コーヒー豆発酵技術の今昔(コピルアクとアナエロ)

最初にコピルアクについて記事を書いたのが2010年の1月。
そこからなんとなくコピルアクに関する情報を追い続けて、気づけば15年が経っていました。
ちょうどいい機会なので頭の整理を兼ねて「発酵」に焦点を当てた形でコーヒーの話題を一つ投稿してみたいと思います。

コピルアク(コピ・ルアク、コピルアック)はジャコウネコの排泄物から取り出したコーヒー豆が、独特の香りを帯びていておいしい!と好事家の間で話題となり非常に高値で流通しているコーヒー豆です。一昔前は農園に忍び込んだルアックが完熟した美味しい豆を厳選して盗み食いし、未消化の排泄物(豆)が、腸内でルアック特有のジャコウの香りを帯びた結果(発酵プロセス)、稀有な香味の豆となる、というゲテモノ扱いでした。

2006年の邦画「かもめ食堂」、2007年ハリウッド公開の「最高の人生の見つけ方」という映画で取り上げられ世界的に注目を浴び、一気にレアアイテムとして価格が急騰。

野良ジャコウネコが排出生産できる量をはるかに超えて供給される事態となり、インドネシア政府が政府承認を行うなどしてブランド価値を保とうとしましたが、時すでに遅し。

ルアックを飼って、粗悪な豆を食べさせれば高級コーヒーに早変わり♪
さらに、ほかの豆も混ぜ込んでかさ増ししてしまえばぼろもうけ!
という錬金術があちらこちらで見受けられるようになりました。

その結果、動物虐待の名のもとに取り締まるべきだと声を上げ始めた、というのが直近までの一連の流れと認識しています。

昨今のスペシャリティコーヒーの流れの中で「トレーサビリティ」が担保できていないうえ、「サスティナビリティ」、つまり環境負荷や事業継続性が保てるか疑問が残る、という側面もあり業界の中では取り扱いが難しい商材となっているのが現状のように感じています。

コピルアクの成り立ち
ここで、なぜ自分がコピルアクについて15年ほど追いかけているかというと、その成り立ちが興味深いからで。

オランダの植民地だったインドネシアが、コーヒーベルトというコーヒーの栽培に適した気候であったことを受け強制的にコーヒー栽培に従事させられ、奴隷のような扱いを受けていたことに端を発します。

農園で作業している人たちはコーヒーというものを飲んだことがないという中で、それでもここまで農園を拡大し作業を強いてくるコーヒーというものが一体どういうものか飲んでみたい、という苔の一念で、そこらに落ちてたジャコウネコの排泄物に未消化の種(コーヒー豆)が残っていたのを見つけ、それでいいから飲んでみたいと洗って乾かして、見よう見まねで焙煎したらなんだかおいしいぞ、ということになり。

そのうちに好事家に見つかり、飲んでみたらおいしかったということを受けて一部マニアにばかうけ。
そうして水面下で「コピルアクなるゲテモノがうまいらしい」という噂が噂を呼び、知る人ぞ知るコーヒーになっていったという歴史があります。

人間というのは本当に好奇心が旺盛で探求心が豊富。
ものすごく人間臭いエピソードで好きなんですよ。

そんなこんなでコピルアク。

そのうち手に入らなくなるか、今以上の異様な高値になるかの二択という分水嶺にあるように感じていまして。

日本人並みの品質管理手法で、高級な豆を、まっとうな環境で飼育したルアックに、適切な量を食べさせる、といった透明性を担保した管理を実現しない限りは、市場から消える未来ではないかと考えています。

一方、そんなコピルアクは人工的に再現不可能な、天から与えたもうた偶然の産物なのか?という観点からアプローチするコーヒーマニアも中にはいまして。

コピルアクが直接的なきっかけではないにせよ、ここ5年程業界内で話題となっている技術革新がありました。
それを嫌気性発酵(アナエロビックファーメンテーション 略してアナエロ)と言います。

ワイン醸造の手法を応用し、コーヒー豆を密閉して空気に触れさせない無酸素状態で嫌気性の微生物のみによって発酵させることで独特の香味を豆に帯びさせる、という試みです。

有酸素状況下では腐るか劣化するのがオチで、ニュークロップと言われる収穫したての豆の味わいはもって1年と言われていた従来の保存技術から一線を画す取り組みで、酵母(嫌気性微生物)の組み合わせで多様な風味を生み出せる、ということで個人から企業まで、多様なプレイヤーが今も研究を続けており、コーヒーの品評会ではアナエロが高い評価を受けるシーンも増えてきました。

豆と酵母の組み合わせで、場合によってはコピルアクのような「錬金術」が可能になるかもしれない、というのが動機付けの一つにはなっているように感じていますが、確かにどれもオンリーワンの香味を帯びており、将来性を感じざるを得ません。

年々高騰するコーヒー豆
豆そのもの品種改良やクオリティという意味では現状、ゲイシャ種が市場を席巻しています。

ゲイシャ種もフォーカスされたのが西暦2000年と日が浅く、パナマのエスメラルダ農園にて偶然に栽培されたことがきっかけで、以降、コスタリカ、コロンビアなどで作付けされていますが、やはりエスメラルダ農園のものは頭ひとつふたつ抜けて美味しいです。

しかし、ゲイシャ種であればどこ産であってもプレミアがついてしまい、気軽に飲めない値段がついてしまうため奪い合いとなっており、農園単位でオークションが実施されるなど市場に流通するには生産量や価格に折り合いがつかず、豆の品種・品質で錬金術をするのは頭打ち、という状況になっています。

そのため、アナエロという「技術」で錬金術を図っている、というのが現状ともいえるように感じている次第です。

「世界で一番高いコーヒー」とアナエロ
ここからは余談ですが。
こちらで取り上げられているサザコーヒーが落札した史上最高値のゲイシャですが、まさに2021年に落札した最高値ゲイシャを鈴木太郎社長に飲ませていただく機会がありまして。
飲んでみたら、アナエロっぽい香味だったので「・・・アナエロ?」と聞いたらニヤッと笑っていたのが印象的でした。

現状の最高峰・最高値のゲイシャですらアナエロ処理をしてさらに付加価値を高める流れになっている以上、今後のトレンドとしてアナエロ処理の豆はどんどん市場に流入してくるものと思われます。

そうと知らずに飲むようになる日も近いかも。

コピルアクとアナエロとコーヒーバブル
ということで、コピルアクとアナエロは個人的には地続きであり、おいしいコーヒーを追求するトレンドは当面の間続いていく代わりに、価格は天井知らずになるんだろうなぁ、という感想を持っております。

直近のオークションで落札されたベスト・オブ・パナマの価格は何と1Kg約453万円。
未成熟豆を取り除き(ピッキング)、焼きあがりで水分が飛ぶことを計算すると10~15%が目減りすることになるので焼き上がり豆として提供できるのが850g程度。

1杯のコーヒーをとるのにどうケチっても8gは必要になるので、その換算でMAX100杯程度しか取れないことを考えると、1杯5万円で赤字という、とんでもない価格となります。
(採算ベースで1杯10~15万はとらないと元が取れないレベル。輸送費、保管費、テスト焙煎のロス、焼き上がりの豆を保存する技術費、その他)
まさにコーヒーバブル。

国際的な投機対象となってしまったことを受けコーヒー価格は全般的に上昇の一途をたどり、生豆相場が10年前の倍になっている現状、早いとこ飲む気がない人たちはコーヒー投機から手を引いてくれないかなぁと願ってやまない今日この頃です。

 

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